2010年12月12日日曜日

肉体の悪魔。

20世紀初頭、腸チフスにより弱冠20歳でこの世を去ったレーモン・ラディゲはフランスの作家である。詩を除いた作品はこの「肉体の悪魔」と「ドルジェル伯の舞踏会」の2作となるので論評のしようもないのだが、とりあえず、「肉体の悪魔」の読書感想文らしきものを書いてみようと思う。
本作では主人公の15歳の少年が19歳の人妻と恋愛をするとゆー、ありきたりなストーリーが展開されるのだが、フランス文学のエッセンスが詰まった心理描写に、「うーん、よく書けてるなあ」と感嘆することしきりであった。ラファイエット夫人の「クレーヴの奥方」、コンスタンの「アドルフ」から連なるフランス文学系心理描写の蜘蛛の巣に読者が囚われてしまうのは当然の帰結で、正直に言って十代で読み終えておくべき作品であったように思われる。文章は硬質とゆーか、濃縮還元とゆーか、フリーズドライとゆーか、相当に推敲され計算された結果のそれで、贅肉がない。障害物を避けて曲がりくねった道を往くのではなく、ピンポイントでA地点とB地点を結んだ感じだ。考えつくされた文章ほどスピーディーに読めるとゆーのは本当の話で、実質的には常磐線の上野から松戸までを何回か往復する間に読み切ってしまった。
この物語は作者であるレーモン・ラディゲ自身が14歳の時に出逢ったアリスとゆー24歳の女性がモデルになっており、16歳の終わりから20歳の始めのおよそ3年強の時間をかけて完成させた力作である。私生活ではジャン・コクトーと時間を共有することが重なり、彼との同性愛が噂されたラディゲ…。このあたりで、若い頃の三島由紀夫がラディゲに傾倒していた理由に合点がいく。同時平行して執筆していた「ドルジェル伯の舞踏会」の校正に没頭し、ピケーで食べた生牡蠣による腹痛を医者に診せなかったラディゲが腸チフスの宣告を受けたのは1923年12月であった。
その数日後、彼は死ぬ。哀しみに沈むジャン・コクトーはアヘンで心の安寧を保とうとし、文壇から消えた。病気療養中の1929年、コクトーがベッドの上で3週間で書き上げ、世に問うた作品が「恐るべき子供たち」であった。その主人公ダルジュロスのモチーフこそ、レーモン・ラディゲその人であった(ように私は思う)。

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